疾風のレクイエム その4
ヒサトモの血脈がおこした奇跡はこれで
終わりではありませんでした。
自分の末裔たちに終の棲家を与えてくれた
内村氏の恩に報いるようにヒサトモは更なる
奇跡の仔馬をさずけるのです。
1988年4月新冠の長浜牧場でその鹿毛の牡馬は
うまれました。
父は「皇帝」と呼ばれ史上初の無敗の三冠馬・七冠馬
そしてパーソロンの最高傑作とされる
名馬シンボリルドルフ
母はトウカイナチュラル
あのトウカイミドリの二番仔でトウカイローマンの
半妹にあたります。
ヒサトモのような流星とソックスをまとったその仔馬は
脚長で華奢でありましたが独特の品を感じさせる馬で
あったと言います。
その出生も偶然というにはあまりに宿運を
感じさせるものでした。
ルドルフがダービーを制覇した時たまたまそれを
観戦していた内村氏はその圧倒的な強さでレース
を支配したダービー馬に一目ぼれし
ローマンが繁殖に上がった暁には、是非ルドルフを
つけたいと思ったのです。
6歳になったトウカイローマンは勝ち星からも遠ざかり
引退も視野に入れるようになっていました。
そのローマンのため内村氏は新種牡馬となった
シンボリルドルフの種付け権を用意していたのです
しかし引退レースのつもりで走った新潟大賞典で2着
復調の兆しを見せたローマンに引退の花道を
飾れるかも知れないと、現役続行の決断が下されたのです。
せっかくのルドルフの種付け権は宙に浮いてしまいました。
思案した内村氏はローマンの一歳下のトウカイナチュラルに
ルドルフを付けることにしたのです。
しかし姉のローマンに比べナチュラルは競争馬になることもなく
早々に繁殖に上がった馬でした。
そんな事情で生まれた仔馬は育成調教を始めると素晴らしい
才能を開花させはじめます。
後肢の柔らかいフットワーク大きなストライドで伸びやかに
走るその姿は、精悍な顔貌とも相まって周りの人に大きな
期待を抱かせるに充分過ぎるものがありました。
シンボリルドルフの最高傑作といわれたこの馬は、
父ルドルフと同じように無敗で皐月賞・日本ダービーの
二冠を達成し、さらにジャパンカップ・有馬記念をも制します。
競馬を知らなかった人までもがその名前を口にし、
絶大な人気を得た名馬
・・トウカイテイオー・・
その馬だったのです
まさに内村氏はかけがえのない究極の名馬をさずかったのでした。